エチュードそしてプレリュード

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停止していた矢が角度を九十度変えて飛んでいく。 「停止位置からのトラップなど、色々使える応用だ。覚えておけ、損は無い」 「……貴方は私を完全な暗殺者に仕立てたいのですか」 「見抜くねぇ。正確にはどんな場所からでも射抜く事が出来る狙撃手かね」 「それは結論として暗殺に繋がる……」 「皮肉か?」 「貴方がそう仕向けたのでしょう」 「冗談。俺はそこまでみょうちくりんな事は考えてないさ」 「ならどうして」 「偶然だ。お前の戦術が只偶然あいつらに無いものだった。それだけだ」 沈黙して俯くピアナ。自分の所業、自分の名前を思い出す。 ピアニシモ。だけど今はピアナ。二つの名前。 矛盾。殺意と護りたいという思い。 「ま、たまには自分自身と向き合うのも悪くないだろ」 そう言い残してリオンは部屋を後にする。 たまには、自分自身と向き合うために弦を引くのも悪くないだろう。 只無言のまま、ピアナは目の前の的を狙い打った。 静かな自分だけの世界で、自分自身と向きあう為に。 ――――― 「さて、えらく待たせてしまったな」 「一体何をしていたんだ、リオン」 リオンは苦笑しながら、ワルキに言い訳をする。 「いやなに、一人厄介なのがいてね。上手いこと時間配分が出来なかったんだ」 言われただけで何処の誰がその厄介なのが誰か判ってしまう。 強くなることに対して貪欲なのは、彼女だけだ。 「……んで、お前は俺と組み手をするんだよな」 若干、不満を顔にだしてそういう。 自分だけはどうしてそこまで基礎的というか、当たり前のことばかりさせられるか。 「なになに、組み手というほどでもないさ。只お前は――」 一陣の風が吹き去る。 「俺に一撃入れれば良いだけだ」 風纏い。ゾッとした。背筋に悪寒が走る。 「さて、頑張ってくれ。此方からは攻撃しないのでな」 地獄の訓練が、幕を開けた。
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