序曲

7/19
前へ
/617ページ
次へ
そして試合。 無論の事であるがファイはリオンの望む勝利を収めた。 正直に言って、相手が良かったのもある。序盤に相手が単純なミスを行い、それに付け入り一撃を打ち込んだ。 そしてリオンの順番となる。 対戦相手の少年は笑顔だった。何せ学年最弱、落第寸前の生徒が今回の試合相手なのだから。 それと自分を比較しても余裕だと判断したのだろう。 奥の手である風纏いなんて恐れるに足りない。あんなものはただ逃げるだけの技だ。 常に魔力を使用し続けなければならない為、リオン程度の魔力ならば時間一杯持たないと判断したのだろう。 いや、それが当たり前なのだ。 当然、それが常識なのだが。 例の小ぢんまりした控え室で控えのメンバーは試合の成り行きを見つめる。 「……大丈夫かな」 一人不安そうに呟くのはファイ。別にリオンの身を案じているわけでないというのは、周知の通りだ。 「大丈夫なんじゃない? 流石のリオンも約束を反故にした事無いし」 カレナはそういうけれど、全く不安が拭いきれないわけじゃなかった。 何処か別の所で別な不安が支配しているんだ。 全く別の不安が。 もう聞き飽きて来た試合開始の合図が響くと、リオンは掌を突き出した。 それは相手に待て、という風にとられたらしい。別に本人にそういった意図は無かったのだけれど。 「何だ? もう降参か?」 少しだけ気合の入った表情をした少年が武器を構えてリオンに問いかけた。 何がおかしいのかリオンは少し笑うと、いいや、と首を横に振った。 「別に。誰もリタイアなんていわないさ。言う必要性も無いからね」 それが自分を小ばかにしたような口調だったのが気ににら無かったのか、少年は口をへの字に曲げる。 「ただ、最初にこれだけ言っておこうと思ってね」 そうしてその口から出てきた言葉に、少年の頭は沸騰する。 「五分」初めは自分の耳を疑った。「五分以内に一撃でも攻撃を当てる事が出来たら、君の勝ちだ」 巫山戯るな! と叫びながら少年はリオンに向かって魔法を使用する。 その言葉が、学年最弱の口から吐き出されることが、少年には我慢なら無かったのだろう。 努力もせずに、ただ落ちこぼれるだけの奴に。 魔法は直撃したかの様に見えた。肩で息をしてリオンが居た場所を見続ける少年。 余程、リオンの言葉が気に入らなかったのだろう。
/617ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7442人が本棚に入れています
本棚に追加