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「さぁ、焦燥しろ。加速して見せろ。時間は永遠でない。君の時間はどの程度の速度なんだ」
泥濘に足を取られる事なんて無く、滑らかな回避運動を繰り返す。
じめじめとした空気だというのに汗一つかいていない。
激しい運動をしているはずだ。落ちこぼれとは思えないほどの跳躍をして木々を足場としているのだから。
懐から、時計を取り出すリオン。十字の装飾がされた、銀の懐中時計だ。
「残りは一分。六十秒か。実に退屈で長い時間だな。君とってはとてもとても短い時間かもしれないけれど」
五月蝿い、と内心ぶちまけてやる。
目の前にいる人間にどうして一撃も攻撃を当てる事が出来ない?
何故、ゼロ距離の攻撃を防御することなど無く、全て回避する事が出来るというのだ。
何故だ何故だ何故だ! 思考が彼の中を支配していく。
戦闘中に思考をめぐらせる行為ははっきりといってご法度だ。
けれど彼は理詰めで戦うタイプ。
それが逆に仇となる。
リオンの言う速度とは体感時間の事。つまり、どれだけ体を動かせたか、どれだけ短時間に多くのことを思考できるかのこと。
もっとも、彼の言う時間には相対的な意味合いも含まれているのだけれど。
「十秒前。特撮なら超加速する時間だ」
かちりと時計の秒針が刻一刻とタイムリミットが迫る。
「ファイブ、フォー、スリー、トゥー、ワン……」
回避を続けるリオンの口から時間が告げられる。
そしてゼロ、という言葉の変わりに彼の口から出てきた言葉。
「Time out(時間切れだ)」流暢な発音で、そう告げる。懐中時計を閉じる。
そしてぱちんと指を一つ弾く。
それだけだった。それが、相手に敗北を告げる仕草だった。
その音を聞いた途端にバンの体中に風の刃が。
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