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わざとらしいその動作を見ても表情を変えないクルド。
そのこういった類の相手には自分の感情の変化を見せないほうが得策だ。
眉一つでも動かしてみろ。
相手に心を見透かされてしまう。
とはいっても、エルにとってそれは動揺を隠そうとしているという行為にもとる事ができる。
つまりは逃げ場など無い。
傍から見ている委員長は、二人の緊迫した雰囲気に先程から圧倒されっぱなしだ。
とはいっても、クルドを制止するわけでもない。彼女も気になるのだ。リオンという人間の正体が。
「崩天、かしら?」
「ふふ、さぁ? 貴女は御存知かしら。あの人は何年も同じ姿でいることに」
「話を逸らさないで」
瞳が鋭くなる。剣を握る手が汗ばんだ。
「あら、心外ですわね。気ならないのでしたら貴女の質問に端的に答えて差し上げますわ。はい」
やはり、崩天が関わっていたのだ。
これで繋がった。ファイ、リオン、そしてこの女性。
「ああ、貴女は初めまして、だったかしら。それとも『お久しぶり』かしら。まぁ、どちらでも構いませんわ。弟分がお世話になっております。エル、と申しますわ」
今更気がついたかのように委員長にそういうエル。
ちょっとした挑発行為のつもりが存外長居してしまった自分に驚いている。
「私、の事を?」
咄嗟のことに面食らった委員長は言葉に詰まりながらも、彼女に質問した。
「ええ、中々愉快痛快な女子生徒がいるとの事でして、ね。まぁ、彼らと戦うことになった時は、是非ともよろしくお願いいたしますわ」
彼女はそういうと、首に剣を突きつけられたまま微笑む。
その光景は余りに背筋を凍らせるものだった。
「それでは私はこれで」
「逃すと思う?」
「風を捉える事が出来るとでも?」
彼女がそういうと、足元から霧のように消えていく。
まるで崩れていくかのように。
「貴女方との一戦、実に楽しみにしておりますわ」
最後にそれだけを言い残して彼女の姿は完全に塵芥と成り果ててしまった。
残された二人を包み込む沈黙。
それが二人を駆り立てる理由となったのかどうかは、知るところではない。
ただいえることは一つだけ。
彼女達が予選を敗退する理由が無くなった、ということだけである。
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