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決勝トーナメント開会式を翌日に控えた夜。
五人は寮にあるファイの自室で作戦会議にもならない集会を開いていた。
「……とうとうここまできてしまった」
「いやいや、ここまで来てもらわないと俺の面目丸潰れだっつの」
ファイの呟きに言葉を挟んだのはリオンだ。彼からすれば自分の教え子が、高々専門学生に敗北するのが耐え難い屈辱なのだろう。
特に普通のカリキュラム通りに訓練してきた学生程度には。
「リオンの言う通り。全くもうちょっとシャキッとしなさいよファイ」
「仕方ないだろ。何せ入学した直後はこんな事になるとは思っていなかったんだから」
「随分と弱気だったのね」
「違うよ。俺はもっと普通に、普通の学生生活を送りたかったんだよ。あんまり目立つの好きじゃないし」
「私だって別に目立つの好きじゃないわよ」
「だったらどうしてギルドランクAなんて取ったんだよ」
「いや、それは……」
「強くなりたいだけだったら、別にギルドランクにこだわる必要性ないだろ。リオン様みたくも出来るし」
ちょっとした鈍感発言をしながら、会話は弾む。
「とは言っても、一番の驚きはワルキなんだけどな」
「俺自身が一番驚いているわ。まさかここまで強くなるとは……」
手の平を握ったり開いたりしながら、ワルキはそんな事を呟く。
結局、最初の試合以降、ワルキは常に圧勝している。内容なんて無い。只の一撃二撃。攻撃が当たった瞬間が相手の敗北だ。
これが以前までの彼だったら、間違いなく一度は敗北しているだろう。と言うか敗北していないと言う理由が見当たらない。
「それなりの事はやってきたと言う自覚はあるけどさ。やっぱ不思議だよな」
「お前もあれだけ死にそうな目にあってきたもんなー」
隣国での出来事を思い出す。
本当に死ぬ一歩手前だったのは今でも背筋に悪寒が走る。
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