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そして彼女が満足すると次は、崩天のルシフェルが口上を述べる番だ。
「さて、私も久しく人前に出ているわけではないが、諸君らの中には見た事がある者もいるだろう。尤も、私のこの姿なんて誰にだって真似が出来てしまうものだろうがね」
ああその通りだよ、とファイとリオンは同時に毒を吐く。
目の前にいる偽者が非常に気になってしょうがない。
クロノが真似をするならともかく、彼は今来賓としてここにいる。
そしてゴーレムや幻影の類を、彼は使う事は出来ない。ここまで精密なものを使うのは非常に魔力を消費する上に神経質になるのだ。
リオンで無くとも、簡単に見抜けてしまう。
けれどその形跡は一切見当たらない。
つまりはその姿を誰かがまねているという事。その正体、嫌に気になってしまうじゃないか。
「私は先の大戦で沢山の人を殺した。人々は私の事を英雄なんて持て囃すがね、所詮は只の人殺しなんだ。世が世なれば、只の大量殺人鬼だ。君達は私を目標になどする必要性は無い。そして忘れないで欲しい。君達が目指しているものは人を殺すものだという事を。同時に誰かを守る為の行為であるという事も」
理解している。崩天のルシフェルを。
余計に気になる。年齢は其処まで行っていない。老人、というわけではないが、若々しい。
さしずめ四十手前くらいの若さ。
それで彼の事を理解している人間など、この国にクロノを除いて後どれだけいるのだろうか。
ヒュン。見えない何かがルシフェルに向かって飛ぶ。
それは何に阻まれるわけでもなく、一直線に飛んでいく。
気づいた人間は居た。けれど、それ以上に驚愕の方が大きかった。
まさか、こんな時に崩天に向かって攻撃を仕掛ける奴がいるなんて思えなかった。
スゥと、仮面をつけた女性が現れ、ルシフェルの前に立ちその手に持ったナイフでそれを弾きあげる。
落ちてきたそれを、崩天は人差し指と中指で掴んだ。
周囲と同化する迷彩魔法が解けて、銀に輝く刃が露出する。
別に二人ともこれと言って動揺した風は見当たらない。かけらの感情の動きも見せないのでは揺さぶる意味も無い。
それ以上にざわめく場内。
教師陣の狼狽え様といったら。
何を其処まで慌てる必要性があるというのだろうか。
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