行進曲

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まるで魔力を練る時間など、詠唱なんて児戯なんて必要ないといわんばかりに、絶対級魔法を速射してきた。 ふざけているとは思わないのだろうか。 あんな短時間にあんな魔法を使用するなんて。努力なんて馬鹿馬鹿しく思えてしまうじゃないか。 どれほどその高みに憧れて、どれほどの時間を浪費したのだろうか。 結局その高みになど至る事が出来ず、諦めてしまった人だっているだろう。 彼らの時間を否定したのだ。 リオンの傲慢は困る。 才能は努力に勝る。それを示したに過ぎないだろう。 即ち、努力なんて意味が無い。 そして、その圧倒的な力はスカウトマンからすれば、余りに魅力的なことだ。 そう、ファイの二つ目の心配事というのは、スカウトマンからの執拗な勧誘だ。 たとえ途中で敗北する結果に至ったとしても、それはリオンの実力として加味しないだろう。 往々として人間は、第一印象で、その中身までも邪推してしまう。 まったく、大体人間なんて自分が嘘つきなのに、他人は正直だなんて、そんな願いなんて。 馬鹿馬鹿しくてしょうがない。 扉の外の気配を探る。 探知系魔法を足元の隙間から外へと流し込む。 幸いにもまだ外には誰もいない。 「そんな警戒すっことないでねーの?」 「生きてましたか」 背後から聞こえてきた声。いつの間に来ていたのだろうか。 あれだけ痛めつけていたというのに。 「私をどうやって殺すというのだ?」 「なら百舌の贄のようにしてやりましょうか?」 「ほんとにあいつに似てきたな。ま、死なないけどな。それにあいつらは俺に殺されたくはないだろう?」 「どういうことです?」 「俺たちは誰にも従わない。何にも屈しない。何処にも属す気などない。あの人と俺がこの国に属しているなんて勘違いをしている馬鹿共がいるみたいだが、違う」 「ああ、大分忘れてしましたよ」 「そして誰一人として俺たちを従わせることなどさせない。それを強制するというのなら、それは全て俺の敵だ」 ああそうですか、と一言だけ言うと扉を開いた。 もうこの人がいる時点でどうするのか、考えるのをやめた。 道を阻むものがあるというのなら、ただ排して進むだけだろう。
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