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ヘイトのなんとも言えない視線に気がついたのか、リオンは口を尖らせて言う。
「君って空想と現実の区別が――」
「つくに決まっているだろアホ!」
「……いや、ただの痛い人にしか」
「見えないのか? だったら、そのくらいが魔法が上達するのかもな」
「つまりは僕も君と同類だとでも?」
「こっちから願い下げだねぇ。お前程度だと俺のお師匠様に殺されちまうよ」
お師匠様本人の口からそんな言葉が出る滑稽。馬鹿だ。
尤も、おどけているが内心では若干驚いているのは事実だ。
先程ファイに対して助力を求めていたのも、あながち冗談や軽口ではないと言うことだ。
「そもそも、お前と俺じゃあ月とすっぽんだってぇの」
「無論僕が月だね」
「お前が甲羅付だよ」
瞬間加速。その姿がぶれたかと思うと、次の瞬間には金属のぶつかる音が響き渡る。
それに驚愕しながらも、何とか攻撃を防ぎ、交わすヘイト。
流石と言うべきなのだろうが、それ以上にリオンが凄すぎる。
目で追うことが最早難しい。
セレナーデ、小夜曲。夕闇に溶け込むように、その姿を隠す技。
親しい人間に奏でる音楽とは異なる、只の名前のフレーズのみで考え付いたような技名。
けれどそれは確実にヘイトの体力を削っていっていた。
ヒュンと、風きり音で判断できる程度。
目を瞑っている所を見ると、どうやら音でその位置を判断しているらしい。
音を置き去りにしているにも関わらず。
音の発生した位置から向かう方向を予測しているのだろう。
活動を行うリオンに対して、静止したままのヘイト。
僅かな均衡が保たれたその数瞬後、リオンが勝利した。
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