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平穏など生まれて知ったのはつい先日のことだ。それだというのに。
尤も、リオンの狙いはそこにあったのだが。
憎しみを発露させる。そしてそれを自覚させるということ。
きっと彼らには辛い試練なんだろう。けれど、それはいつか乗り越えなくてはならない試練。
彼の、彼らの試練だ。
憎しみの吐露。発露。
憎しみ。誰にも救われず、誰からも愛されず、誰のことも想わない。
『欲しい』その感情だけが何もなくあふれかえる。何が、なんて解らない。
ただ満たされない。
そしてそれを持っているものがひどく恨めしい。持ち得ない自分がひどくみすぼらしい。
だからこそ、破壊の限りを尽くす。
何もかもが破壊されたその光景は、神話における神々の黄昏のよう。
だからこそ、彼の二つ名は黄昏の果て。
世界を滅ぼすきっかけは互いの不和、憎しみと言う感情であるように。
そして勝利したのは、黄昏を夜明けへと変えたリオンだった。
真っ白な焔をその身に纏い、無差別に破壊する憎しみを貫いた。
其処に残ったのは、白銀の輝きのみ。
無惨に崩壊した会場に残る片翼の天使。
不完全なその姿が逆に、可能性と言う希望を感じさせる。そんな光景だった。
「全く咄嗟に自決行為をしなかったらどうなっていたことやら」
もしかしたらブローチも働かない程のダメージを受けていたかも知れないと想像すると、背筋が凍る思いだ。
その前にあえなく巻き添えをくらってリタイアした、ワルキは未だ気絶して救護所で寝ている。
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