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「ま、まぁなんだ。あれだ。人は見かけによらないってことだ。そうだろ?」
「だけれど、彼のあれは」
「才能と努力。この二つが必要だなんていう奴は多い。単純な話だ。当然、それは一般論にすぎない。人が人を捨てようとするとき、それは環境という言葉が起因する」
「環境? どういうことよ」
「生物は常に進化を続ける。俺達人間もそれは同じ事だ。生物が進化を望む時、その系譜は環境に依存する。わかるだろ? 鳥は鳥でも、飛べない鳥や水中を飛ぶ鳥のことを、よく知っているだろう?」
確かに、鳥は鳥だがさまざまな種類がいる。
その事実は否定できない。
「もともと、人間は何でもできるんだ。人間だけが持つ万能性……いや順応性と言ったほうが正しいか。それは環境によって強く左右される。クルドと同じだ」
「つまり、私たちよりも過酷な環境にいた、ということかしら」
「そうなる。あいつは生まれてからこの歳になるまで一人だった。初めて見た時は驚いたよ。あいつの眼はすべてを憎んでいた。すべてを恨んでいた。偶然にも社会不適合なほどに精神が成長していなかった訳じゃない。それが尚更に性質が悪かった。人が持つ力を理解していたから、余計にだ」
「でも、どうしてそんな人がギルドに?」
「金だよ。単純にな。あそこは傭兵のたまり場といってもいいからな。今は学生が入れる程のモラルがあったものだが、二十年も昔はひどかったと聞いている」
「それは確かにそうね。今でこそ、私も絡まれなくなったけど、昔はよくからかわれたものよ」
「ま、そんなこんなで乗り込んできたのは良かったのだがなぁ、また鎖でつないでないと無茶するような馬鹿だったからな、あいつは。きっちり首に縄をつけておく為にあいつのギルドランクはA。あいつは首に付いた鎖もかみちぎりかねなかったがな」
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