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恐怖した。つい先程まで彼は怯えていた。
自分の力に。
酔いしれた事は何度となくあった。
自らの力が他者のそれを大きく上回っている事、それそのものが、自分自身を殺そうとする世界そのものに対しての抵抗だった。
他者のすべてが敵だった。
だから、戦う時に誰を殺そうと何を巻き込もうと知ったことじゃなかった。
それは作戦上の損失、ということになる。
憎しみ。
そう、憎しみだ。
それこそがヘイトを揺り動かす原動力。
他者への憎しみが、彼をここまで生かしてきた。
彼という人間をここまで強くし、生き抜かせてきた。
隣に誰もいない。
残るのは自分自身と瓦礫だけ。
でも、だからこそ。
初めて隣に立つ人間が生まれた。
初めて喜びを分かち合える人間が生まれた。
だからこそ、初めて思った。
自分の力のことを。
「負けたよ。負けてしまったんだ。僕は」
呟くように、彼はいう。
負けてしまった。
「どうしたよ。珍しいじゃないか」
お前がそんな沈んだ表情見せるなんてよ、とティンはそういう。
「僕は、君たちを巻き込んでしまった」
「そんなのお前の戦い方からしたら当り前じゃないか」
「これはゲームだ。でも、本当の戦いなら」
「俺たちは死んでいた。分かっていたさ」
何の気なしにそういうティン。
「君は分かっていない! 死ぬと言う事の意味を!」
「わかってるさ。でも、死は終わりじゃない」
「死はすべての終極。生きれば生き得、死ねば死に損だ」
「そうか。そうだな」
自分が生きているという実感が沸いている、ティンは余計に笑う。
なぜ、笑えるのかがわからない。
「どうして、君は笑っていられるんだ。ティン」
ヘイトは尋ねる。
「お前が今まで本気を出していなかった。そんなことは知っていたよ」
「でも、僕の力は!」
「すべてを破壊する」
「そう。すべてを破壊するのが僕の戦い方だ」
「いいじゃねぇか。それで」
「どうして!」
叫ぶ。
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