彼の哀歌

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娘が通った学校だった。 息子が通った学校だった。 孫が通っているだけの学校だった。 それだけだったはずなのに。 今はもうそれ以上の感情を持っている。 この学校と言う場所に、居心地の良さを感じてしまっている。 ここは自分のいるべき場所でない筈なのに。どうしてこんな感情を抱いてしまっているのだろうか。 学校は楽しいのかと聞いたことがあった。楽しい場所だとは思えなかったから。 それを聞いた娘は笑って言った。 「楽しいよ。お父さんも通ってみれば分かる」と。 だけれど、もう自分には不必要な場所だと言うのは分かっていた。 これ以上、何を必要としているのだろうか。 学校に行った所でわざわざ、面倒な授業を受けるだけなら、行かない方がましだ。 煩わしい人間関係など糞喰らえ。 大体、一体どれだけ年齢がかけ離れていると思っているんだ。 それこそ、感性が全く違うと言うのに、どう楽しめと言うのだろうか。 幾ら肉体が十代のままでも、無理があると言うものだ。 そう思っていたのに。 今はここで孫やその友人達と共にいる事に充足感を得ている。 おかしい。 楽しい、そんな感情では無いけど。 幾らか愉快な気分にはさせてくれる。 退屈だった。 あの数百年に渡る放浪の旅よりも、あの子を失ってからの数年間が何よりも自分の心を締め付けた。 でも、あの子のたった一人の忘れ形見。 炎を使う、その姿は、あの子の姿に似ていた。 猛々しいのに、何処か寂しそうで。 線香花火が、好きなあの子に。
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