彼の哀歌

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「どうした? 俺は見せた筈だ。スペードスートは剣を暗示するものだ。そして、十という数字は、零という意味でもある」 そんなことも気づかないなんて……と口元を押さえながら笑うリオン。 そのしぐさのうざい事うざい事。 そしてその挑発に相手が乗っかってくる。 一斉にリオンに向かって攻撃を開始する。 「だからさ」 溜息をつくしぐさをすると、くるりとナイフを一回転。 刃をつまむようにして、もったそれをひゅんと投げた。 それは一直線に、敵の一体の眉間へと吸い込まれ、そして突き刺さる。 それによって、幻影は消滅するが、リオンに向かっている他の幻影はノーマークだ。 仕留めた! そう確信したことだろう。 あれだけの数のナイフを操作するなんて、常識では考えられない。 だが、失念していた。 リオンは、常識では測れないことを。 すべての幻影は、リオンにその刃で傷つける前に、止められていたのだ。 すべてのナイフが、その剣を受け止めていた。 「おいおい、こんな程度か?」 本当にあきれそうになっているリオン。 「少しは楽しめそうだと思ったのだけれどな」 そういうと、彼は滞空させていたナイフを、幻影達に突き立てた。 先ほどまで数での優位を見せていたそれは、あっという間にファイが相手をしている数体を残すのみになってしまった。 さすがに焦る。 ここで、幻影の増援を送るか、それとも姿を消してそのまま相手に行くか。 一瞬の逡巡が、リオンに付け入る隙を与える。 手を振り上げるリオン。それに呼応して一斉に同じ方向へとその切っ先を向けるナイフ群。 「姿は消せても、存在はそこからはなくならないんだよ」 ヒュ、と無慈悲に腕を振り下ろす。
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