彼の哀歌

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それと同時にナイフは使用者の意図を読み取り、忠実に移動を開始した。 精神感応型の兵器を使用するためには、多大な集中力が必要となる。 そのため、使用者はその場で動けなくなることが多い。 周囲の情報処理に集中力の大半を使うからだ。 それを分かってか、相手は慌てず、行動を開始する。位置がわかったといってもナイフが到達するまでに時間がある。 そして、それだけの間に自分はあれらから逃げきり相手へと接近、そののちにとどめをさす事が出来る。 そう判断していた。 彼の目測は正しい。きっと間違ってはいないだろう。何せ、中にあるナイフは十や二十なんて数ではない。 五十、下手をすれば百なんて言う数かもしれないのだから。 当然ではあるが、リオンもそんな数の位置把握なんぞ逐一行えるわけではない。 相手が間違っていたのは、リオンが崩天のルシフェルを師事していたという事実を、過小評価していたということだ。 相手が移動したのを確認したリオンは相手の進路方向前方にナイフを配置してやる。 その本数は八。あくまでもけん制だ。 いくら数があるといっても、それには限りがある。 限りあるものを有効に使う事が戦闘の基本。 生徒は目の前に立ちふさがるナイフを蹴散らして、リオンへと魔法を放った。 鼻で笑うと、その魔法をナイフで防御。そのまま攻撃へと使用する。 その前に生徒は再び幻影魔法を使用して、姿をくらまそうと試みるが、リオンにそんな小手先が通用するわけもなく。 「茶番は終わりだ。主に笑ったから」 なんてふざけた言葉を発すると、リオンはそのナイフを相手の周囲に、円を描きながら滞空させる。 その切っ先は十字架を象っているかのように、真下を向いている。 それは、生徒の動きを阻害することなく、かといって離れるでもなく、ただ追従している。 その不気味さに、思わずその足を止めてしまった。 それが運の尽きだった。 ナイフの隊列が、円から球体へと変化した。 それ即ち、攻撃へと移る合図だ。 瞬時にそれを理解する。同時に、ナイフが一本だけ飛んでくる。 一つ目のナイフは易々とよけてみせる。 しかし、次々とナイフはその数を増し、向かってくる速度も間隔も、何もかもがレベルアップしていく。 「そら、回避ゲームだ。幾つのレベルに行けるかな?」
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