彼の哀歌

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茶番の始まりだ。 盛大な茶番の。 こんなことに意味はない。 ただ、リオンは相手の実力を試して遊んでいるだけにすぎない。 次々と襲いかかってくるナイフ。極限まで研ぎ澄まされた神経が次第にすり減っていく。 上下左右すべての方向から向かってくるナイフを回避しなくてはならない。 決して逃げるという選択肢が与えられないこのゲーム。 魔法を使用したくても、中空を踊るナイフはそれを許さない。 本来ならば、こんな状況は彼の戦術のセオリーから大きく外れている為、逃げの一手を打つのが基本だ。 幻影の魔法を使用する事が出来る反面、一撃の攻撃力を持たないのだ。 シミュレーションゲームにおけるスペックの回避にのみ特化したようなものだ。 鈍重な攻撃ではないが、攻撃力と命中に特化させたリオンの攻撃は相性が悪い。 リオンもこれで手加減をしているほうだけれど。 「おーい。準備終わったー?」 面倒くさそう首だけを後ろに向けてファイに尋ねる。 「うるさいですね。きっちりそこから動かさないで下さいよ」 「動いている目標にあてられなきゃ意味ないんだけどなぁ」 なんてぼやきながらも、きっちりと相手の動きは制限している。 「それじゃあ、行きますよ……」 練り合わせ、鞘の内に溜めた魔力を抜き放つ。 「出でよ災厄の魔杖、炎剣レーヴァテイン!」 抜き放たれたるは、轟々と真紅に燃える炎の刃。 リオンが一度だけ使ったその剣、炎を扱う最強の剣の技。 その威力は絶対級の魔法すら一太刀のもとに両断するとされる。 その剣が頭上から、建物ごと、相手を飲み込んだ。
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