彼の哀歌

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「弱り切った雑魚に唯一の温情を与えてやろうというのだよ。どうしてそれを理解できないかね?」 「……出来るわけがありませんがね。というよりも、もう少しは慎重に手を打ってもいいはずなのですが」 「くだらないなぁ。いずれ崩天を超える存在となる僕に、恐れるものなんて何もない」 あー、言ってはいけない一言を。 即時魔法による攻撃を仕掛けるリオンを見て、ファイはため息を吐いた。 リオンにとって、この手の傲岸不遜な態度をとる人間は、万死に値する。 「黙りなよ。そんな出来の悪い顔をぶら下げて、脳味噌の中味をさらけ出しているようなものだ」 いくつかの枚数のカードを取り出して、リオンは言い放つ。 「どうでもいいですけど、自分はどうしておきましょうか?」 「どっか適当にしてろ」 「また前回みたいに自分は空気になれってやつですか?」 「仕方ないだろ。おまえたちが悪い」 「明らかに悪くない気もしますが……」 そんなファイの呟きもどこ吹く風か、リオンは相手生徒に接近し、拳を突き出した。 が、顔だけを横に逸らされて回避される。 互いに反撃の意志も、追撃の意志もない。 「へぇ、カードはフェイントかい? 流石うすのろはやることが違うね」 「あんたには言われたくないね、小童」 傲岸不遜な態度を崩さない上級生と、それに対して挑戦的なリオン。 一度リオンは距離をとる。 「リオン様、あまり突っ込まないでください」 「うっさい」 「まったく。相手は一人で来ているという事は、どう考えても伏兵を忍ばせているという事ですから」 わかりきっていることを今更言うな、とリオンに怒られる。 それを承知しているなら少しは自重してほしい。 おそらくあの態度が本当だとすれば。 「フン、いらん知恵だけは働くらしいな」 挑発だろう、とはいってもおそらくは本心から出ているに違いない。 なら、なおさら乗ってはいけない。 ふ、と足元が輝いたかと思うと次の瞬間には、そこが崩れ去っていた。
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