彼の哀歌

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距離が離れたところで、炎を纏わせた刀をひと振り。豪と放たれた一筋の炎は、やがて円を描いて相手に向かっていく。 間髪入れずに次の技を使う。 「狐火」言葉を発したのちにファイの周囲に九つの炎が滞空する。 火焔猫が相手に着弾する直前に狐火を放つ。 くるくると回転する火炎が相手の気をそぎ、狐火によって着実にダメージを与える。 狙いはそれだが、はたして相手はそれを見破っていたのか、大剣に魔力を付加させて大きく一振り。たったそれだけで、ファイの放った魔法はすべてかき消される。 実態を持たない魔法だからこそ、脆く形を失い易いということだ。 といっても、組み立てた戦術の中にはそれも織り込まれている。 「夏至」火焔を纏わせ、大きく踏み込んだ一太刀を相手に浴びせかける。 飛びのいて回避する相手生徒だが、その刃は彼の見た目以上に伸びる。 最も長い剣術、それが夏至。母の技の一つ。 しかし距離を見誤ったか、その刀は相手の服を切り裂くだけで終わった。 (ならば……!) ファイはそのまま相手へと接近。先程までの間に納刀は終わらせている。 「冬至」最も速い刀。これも母の使う技。 抜刀術の一つ。最も細やかな技術を使う方法を使う剣術の一つだ。 部分的に魔力を集中させることによって、防御力をあげることによって、その刃を防ぐが吹き飛ばされる。 なんとか受け身をとることによって体勢を崩すことはなかった。 行ける。そう確信した。 絶対的な敗北はない。 三回戦目にして、初めての本格的戦闘。 二回戦まではそれなりに温存しなくてはならない相手だったからこそ、今、確信が持てた。
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