彼の哀歌

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誰もいないはずのそこには、ただひたすらに空間が広がっている風にも見えるが。 不意に攻撃が飛んでくる。 初級魔法。威力は弱いが、さまざまな用途が可能な上、無詠唱で発動が可能だ。 全方位、三百六十度から襲いかかってくる魔法を、リオンは苦もなく迎撃、回避して行く。 「おいおい、この程度かよ。トラップマスター。火力なら誰にも負けないんじゃなかったのか?」 呆れた風にそういうリオン。 「ははは、当然じゃないか。僕がこんな程度の知れた魔法で君を倒す訳がないじゃないか!」 足もとに魔法陣が描かれる。 流石は卑怯で名の通った人間だ。 さまざまな場所にトラップが仕掛けられている。 「無駄」足踏みひとつ、リオンは魔法陣を破壊。魔方陣は、どこか一か所にでも綻びが生じてしまえば発動は不可能となる。 だがそれは破壊されてなお、発動した。 しかも威力を増して。 「……うそーん」 間抜けな言葉を吐いた次の瞬間に、炎が吹き荒れる。 二重の魔方陣を仕掛けるとは、なんとも用心深いというかなんというか。 「あっけねぇなぁ、こんな程度でやられるなんて」 けたけた笑いながら姿をあらわす、トゥール。 「いやいや、そこはさらに暴れ回ろうよ。なんかやりづらいね」 頭をかきまわしながらそう呟く。 まぁ、小手先の小賢しい手品は、リオンにとっては使い古された道具に過ぎないのだが。 「種明かしをしよう。先ほどの全方位からの魔法はお前が予め、瓦礫と炎の魔法にまぎれて配置しておいた、魔法陣から発動されたものだ。足もとの魔法陣は二枚の魔法陣を同時に描き、片方の魔法陣が破壊されたらその分の魔力が別の魔方陣に注がれる仕組みだ」 先程の魔法の手品の種を明かしていくリオン。 「随分と古風な魔法を使用してくれるね。近代的な魔法文化からしてみれば、魔法陣という魔法は精密さと知恵を試すものだ。予備知識があれば、その程度の手品。誰にでも見抜けるさ」 肩の煤を払いながら、リオンは事もなげに言ってみせる。 「へぇ、じゃ。こんなのはどうだ?」
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