彼の哀歌

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光を放ちながら描かれる魔法陣。 対するリオンは身構えることも何もせずに、只なにを持って楽しませてくれるのか、只ひたすらに楽しみにしながら待っていた。 描かれる魔法陣は召喚の魔法陣。何かをここに呼び出すつもりなのは目に見えて分かる。 さてはて使い魔か、それとも強力な兵器か。 内心のわくわくが止まらない中、其処に現れたのは。 「……ごめんなさい」 両手両足を縛られた、カレナだった。 「おいおい、冗談だろカレナ。おまえがこんな奴にとっ捕まるとか、何してんだよー」 特段驚いた風もなく、リオンはそんな事を言い放つ。彼女の心配も何もしていなかった。 トゥーレの右腕に抱えられたままのカレナが、また気丈にも言い返す。 「う、うるさいわね! 油断してたら後ろから薬をかがされてたのよ!」 「えー? 普通気づくでしょうよ」 「気づけないわよ! 私をいったいなんだと思ってるの!」 「ギルドランクAの超武闘派少女」 「……ぐうの音も出ないわよ」 何を呑気に会話をしているのだろうか、この二人は。実の所を言うと、彼女には本来出場者に与えられるブローチを装着していないので、非常に危険な状態なのだ。 「おやおや、そんなに呑気に会話をしていてもいいのですかぁ?」 トゥーレはにやにやといやらしい笑みを浮かべながら、彼女の頬に舌を這わせた。 その行為にさしものカレナも鳥肌を立てる。 「俺は今すぐにでもこいつを殺せるんだぜ? それどころかこいつが自分から死にたくなるような事だって……」 「あーはいはい。しかし面白くなってきたなー」 どうでもいい、とでも言いたげにリオンは頭をかきながらそう呟いた。 とっくの昔にリオンは知っている。トゥーレがカレナを殺せない事も。 「頭に血が昇って冷静さを欠いた所にお決まりの文句でしょうよ。そもそも冷静に考えてここで殺しなんてやったらお前さん退学ものだしなぁ。それに殺人なんて今の貴族の権力をもってしてももみ消せない事実だよ」 何せこれだけの目撃者がいるんだから、と困ったような笑顔を浮かべて言う。
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