彼の哀歌

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思っていたよりもつまらない退屈な手品だった。普通の学生はこのハプニングに驚き、動揺して冷静な判断を下せないままでいるだろう。 確かにトゥーレのとった行動は間違いなく相手の動揺を誘う正しい手段の一つだっただろう。けれど、リオンには通用しなかった。尤も、これは単純な「年の功」というやつだったのだが。 小指で耳を掻きながら「さーどうしてくれようか」なんて考えているリオンに対して、それでも不敵な笑みを崩そうとしていないトゥーレ。 「予想通りだ。実に予想通りだ。僕の予想通り、君は人質を取られた所で一切の動揺をしない」 「今更ねー。驚いたふりでもしてればよかったかな? わーなんでかれながー」 「ま、そうだろうね。この位は君も知っていただろうしね。だから、こんなのはどうだい?」 そういうと、カレナの背中を押した。 流石にその行為には驚いたリオンは咄嗟に身構える。人質を開放すると見せかけて死角から攻撃を放つとも限らないのだから。 かと思いきや何の動作もない。全方位からの魔力の反応は一切なかった。 怪訝に思っているとカレナの体が不意に止まる。なるほど、そういうことか。 「貴様、仕込んだな?」 「流石だな、ご明察とでも言っておこう」 「初めてお前のことを卑怯者と罵りたい気分だよ」 「お褒め戴き光栄だよ」 明らかにリオンの雰囲気が変わる。 取り出したのはクラブスートの2。尤も、その中では弱い部類に属するものだ。 それは杖。童話の中に登場する、水をワインに変えるといった不思議な魔法を使う人間が持つような、そんなものだった。
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