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呆然と、光を失った瞳でリオンは目の前を見つめる。
悲鳴が聞こえる。目の前に染まる血液が、真っ赤に染まり、自分の子供を胸に抱きかかえたまま息絶えている、女性の姿が。母の死を悟り、その腕の中で泣き叫ぶ子供の姿が。
抱きかかえ、例え自分の力をもってしてでも蘇らせられたない、その体。
抱きかかえ、両手が染まる。
リオンは目の前にいる人間を眺める。
「ああ、そうだったな。お前は本当に面白いものを見せてくれたよ」
リオンはそういった。感情のない、目の前に文字が浮かんだような、そんな言葉だった。
炎が巻き上がる。リオンの周囲から轟々と炎が燃え上がり、視界が赤く染まる。
一枚のトランプがリオンの胸の前に浮遊する。それはスペードスートの、クイーン。そして彼はつぶやく。
「炎姫、招来」
トランプから白炎が横一線に広がる。足下から広がる赤い炎と比較して、とても美しいのだ。洩れる閃光。輝く炎。
それを左手で掴む。白炎がはじけて、そこから刀が、桜の花びらが舞う鞘にその刃を納めた刀が現れる。あまりに神々しい光景に言葉を失う観客たち。
そして一部の人間はその刀を見て、驚愕を隠せないでいた。
今、リオンの手の中にある刀は、かつてこの国を護り、そして自らの息子を護り、その命を散らした英雄の刀。
それの名が『炎姫』だ。
一部の資料にもその写真くらいは載った事のある代物だ。だが、現在は彼女の夫であるクロノの手元にすらなく、完全にその所在が分からなくなってしまっていたはず。
そんな伝説にも似た代物を、一介の学生が所持していたのだ。
いかにリオンが、崩天のルシフェルの弟子であったとしても、おかしな話だ。
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