彼の哀歌

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一人、愚痴を漏らした所で何も変わりはしない。 いや、人がいても何も変わりはしなかっただろうが。それに疑問を投げかける事も、同意をする事なんて誰も出来ないのだから。 尤も憧れた存在、その名前を受け継ぎたいと思ったほどに。 そうでありたいと願った。 「炎姫、キリエ」 彼女こそが、誰よりも気高く、女性として母として生きた人間だと言える。 そしてそれ故に、その命を散らしてしまった。 だからこそ、美しいのかもしれない。 一度だけ映像に残ったものを見たことがある。 桜花爛漫。まさにその言葉がふさわしい。 その技に、まず目を奪われ、そして心を射止められた。 それ程に美しい技だった。彼女も、その技も。 誰よりも彼女に近くなろうとして、誰よりも彼女に追いつこうとして。 少女は追い求めたのだから。 その力を。 「是非とも決闘に応じてもらいたいものだ」 その瞳は闘志に満ちていた。 もう、誰も、止められない。 冷たい炎は。
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