歌劇

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そうね、確かにいきなりすぎたわ、と委員長は呟く。でも……と彼女はそのあとに言葉をつづけた。 「戦場で、そんな事を言っていられないでしょ」 そう言って、魔法を放ってきた。 風の魔法、ウィンドカッター。威力は非常に弱いが難度は低く、連続で発動する事が可能である。そのためか、よくよくけん制に使われる。 今回も委員長が使用したのは牽制の為だった。うろたえ、態勢を整える事が出来ないままのファイ。 状況は確実に、少女の思うつぼだった。 所変わって、炎渦巻く戦場。 そこで対峙していたのは、一人の女性と、一人の化けものだった。 「お熱いねぇ。俺を脱がせたいなら、もう少し上品なラブコールの方が嬉しいかな」 吹き寄せる熱風を、涼しい顔で受け流しながら化け物は言う。 「……始まりも終わりもなく」 「おいおい、唐突に攻撃開始かよッ! しかもその詠唱はッ!」 轟、荒れ狂う熱風が少女を中心に回り始める。 「只円環は巡る。触るる者は須らく灰燼と化すだろう――イグニス・キラウェア」 巨大な熱の奔流が、リオンを飲む込む。火の魔法、それも絶対級の魔法。それを使うという事は、既に学生の領域を超えているという事の何よりの証明。 総てを飲み込み、溶解し、周囲の景色がすぐに変わる。観客席に掛けられている防護魔法越しでも、その熱がいかほどかが伝わってくるだろう。 リオンの試合では、会場は常にしんと静まり返っている。試合毎に新しい事実が観客たちを襲うのだ。無理もない。 そしてまた、観客たちを愕然とさせる。 「まったく、折角の優男が、小麦色のいい男になってしまうじゃないか」 熱の本流を腕の一振りでかき消し、涼しげな表情をのぞかせる。十二分に余力を余らせている。 もちろんだが、それを見たクルドもなんら表情を崩していない。 『そうであることが当たり前』であるかの様な表情を見ている。
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