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先程の威圧行為が、ファイへのアイサツだとするのならば、これは恐らくリオンへのアイサツなのだろう。物騒なアイサツもあったものだ。この業界ではこれが当たり前なのだろうか。
「おんや、意外そうな顔をしないね」
貼り付けたような笑顔のまま、リオンはそう尋ねた。
対して、貼り付けたような無表情のまま、クルドは答える。
「このくらいで焦げてしまうようでは、私の怒りは収まらないの」
「へーへー、さよけ。ならこいつはクルドちゃんの恋い焦がれる情熱だと思っておくよ」
「その軽口、いつまで続くかしら?」
彼女はその手に握りしめたフランベルジェを、リオン目がけて投げつける。一直線に向かうそれをリオンはしたり顔で避けた。
「ォォォォォ!」獣じみた咆哮を上げつつ、彼女はとびかかる。
その手には炎で形作られた剣が、握りしめられている。
災厄の魔杖、レーヴァテイン。
今の彼女が振るうにはこれ以上に無い、相応しい剣だ。
眼光鋭くしてリオンは足に力を入れ、跳躍して距離を取ろうとする。
しかし、その力は融け出した地面に奪われる。
柄にもなく驚愕した。彼女は今まで、幾度となく無意味と思える程に派手派手しく相手を追い詰め、撃破してきていた。
相手の全てを悉く塵芥に変え、邪魔なものは全てその炎の剣で引き裂いてきた。ただの力任せに、何の感情もなく、ただ獣の様にしなやかに荒々しく。
こんな事をするような奴じゃなかった筈。
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