歌劇

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目の前にいる獣一匹。それは知性と理性を持ち合わせた、しかし本能への恐怖を自らふるい捨てた化け物。 人間ではない。ヒトという存在の型にありながら、その性質を獣へと変化させた存在程、戦い難いものはない。 これが神性の存在であれば、その驕り昂ぶりに付け入る事も出来る。 「随分と俺に執着してくれるね」 「……お前にあれは相応しくない。だから、取り戻す」 「さて、なんのことやら」 「あの人の、私の憧れの人、あの人の刀をあなたが持つなんて」 「持ってるもんはしょーがねーでしょうに」 それが、認められないのだ。認めるわけにはいなかないのだ。 唯一残された彼女の忘れ形見。だからこそ、それをこんな得体のしれない人間が持っていることな何よりも許せない。その他の理由なんてどうでもいい。 そう、どうでもいいのだ。 「あいつに憧れる程の魅力があったのは認めてやるさ。流石に可愛くて溺愛してしまったからねぇ」 この場にファイがいたら殴られることこの上ないセリフだ。 「そう、気持ち悪い」 禁忌の魔剣、その炎の剣を手に持つ。横薙ぎに一振り。それは紅蓮の鞘によって打ち消される。 「知っているだろう。そこまで好きなら。お前の攻撃はすべて、俺に通用しないことを」 知っていた。知っていて、なお、それを否定するために、戦わねばらならない。そして知っているからこそ、それに対して有効な手段もある程度は知っている。 地面を溶融し、その手に灼熱の高温を放ち続け、絶えずその形を変える何かを手にする。剣と形容するには歪で、鞭と形容するには、その動きは鈍重だ。いや、既存の武器と比較するのは非常にナンセンス極まりない。 それは、まぎれもなく魔法そのものなのだから。
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