歌劇

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それだけだったというのに、周囲にあったそれは砕け散った。 斬れた、形容するのは余りに間違っているだろう。まるでガラス細工が弾けるように砕け散ったとする方が正しい。 刀で斬ったはず、叩いた訳ではない。 周囲は白み、刀は輝き、敵は砕ける。 「やっぱり、お前にもあいつを渡すことはできないよ」 「ガァァアァ!」 醜悪な化け物を従えた、純粋な獣は、燃え盛る拳をリオンに振りかざす。 力任せに振るわれる拳。その鋭さは、あらゆるものを破壊するだろう。しかし、それだけではリオンに届かない。 「終わりにしよう。君を縛るものは初めからなかったんだから」 化け物はゆっくりとその動きを緩慢なものに変えていく。例えるなら、注油されないまま駆動していた機械がさび付いて行くかのように。 リオンが刀を鞘に納める頃には、すでにその動きは止まっていた。 「雪月花、白雪」 その言葉が放たれると同時に彼の周囲がすべて白に染まった。 音も何もない世界にいるかのよう。リオンの吐く息は白く濁り、世界が静止していない、と言う事だけは伝わってくる。 「雪月花、朔夜新月」 納刀されたままの刀で地面を小突く。その周囲の全てが砕け散り、そしてクルドも地面に倒れこんだ。 一体何が起こったのか、誰にも理解できない。 ただ、リオンという勝者だけが、また残っただけだった。 「未来を燃やすお前に、過去を凍てつかせる事なんて出来はしなかったんだ」
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