歌劇

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執念の炎に駆り立てられた獣である彼女は、炎をものともせずに突っ込んでいく。しかし、ファイの姿はそこにない。 一呼吸置くために、ほんの僅かに右へと逃げたのだ。 たった一つの呼吸、それだけで十分だ。この技を使うには。 「月に叢雲」 月を覆い隠す雲が、相手を惑わす。 「花に、風」 そして、吹き抜ける一陣の風が、委員長の体を引き裂こうと襲いかかる。 幻想即興曲ではない。母親の技の一つ、知ることのなかった一つの技。母の才を多く受け継いだ彼だからこそ、使う事の出来る技の一つ。 月を覆う雲を払おうとすれば、花を散らす風に切り裂かれ、その風を押しとどめれば月を雲が覆い隠す。好事には須らく邪魔が付き物であるというのは、昔からの定番だ。 僅かな剣戟が交錯する。響く金属音と、何かが地面に落ちる乾いた音。 ファイの剣戟に、その得物を弾かれ、膝を付いた委員長。彼女の目の前には、僅かに刃毀れをした、白銀の刀身。 茫然とする少女が、その顔を上げる。見開いたその目に映した、ファイの表情は、その瞳の置くにはどこまでも暗く深淵を映し出しているかのようだ。 その瞳を彼女は見たことがある。彼のすぐそばにいた男が、よく似た瞳をして、よく似た表情をしていた。 「リオ――」彼女がその言葉を口にする前に、ファイの刃が彼女のブローチを貫いた。
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