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静寂が訪れ、勝利を告げる鐘の音が聞こえる。
それはファイに「勝利」という実感を与えるには、あまりに無味乾燥なものだった。
結局、彼女たちを駆り立てていたものはリオンへの執着。でも、何故そうまでして、リオンというたった一人に執着するのか、理解に苦しむ。
強くなりたい、何のために?
ただリオンに追いつきたい。カレナを守れる自分になりたい。ファイにとってはそれが間違いのない目標であり目的だ。しかしながら、その目標、目的に近づいていっている確信がない。
とどめをさしたその手に実感がない。
さっきまであれほどまでに剣を交えていたのに、もう熱がない。
「戻るぞ」傍らに来ていたリオンが、そういう。
「リオン様」気の抜けた声でファイがつぶやく。「俺は……」
何かを言う前にリオンは、背を向けて歩いていってしまう。
恐らくリオンはその答えを知っていたのだろう。知っていて、リオンは答えなかった。答えを知ったところで、納得なんてできるはずも無い。
理由を追い求めるために戦うのか、それとも……。
いずれにしても、ファイは先に進むしかない。もう、止まれない。
この大会を勝ち抜いて、父親に追いつく。
それだけのために。
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