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これまでの人生は、諦めて来てばかりだったと思う。
片親を無くし、沈んだ姿を見せまいと無理をして笑う姿を、見てきた。
英雄としての二人の力を受け継いでいるという自覚も、その頃にはあったと思う。
でも、父親の悲観に暮れた背中を見て、自らの外見に残る母の面影を見つめる父の瞳をみて、何も思わなかったわけじゃない。
自分の事を見てほしい、自分の事をもっと見てほしかった。自分が知らない母親じゃなくて、今ここにいる自分の事を。
幸いにも、力はあった。周りの事なんて良く分からなかったけれど、自分の力は両親から譲り受けたものが多くあった。
強くあれば自分を見てくれるかもしれない。そう思っていたのか、毎日、毎日野原を駆け回る毎日。
只ひたすらに、父の庇護にありたいと願ったのかわからない。
そして、その日は訪れた。
いつもの森、普段と違ったのは一緒に来ていたのが、幼馴染だったと言う事と、手負いの化け物がいたというくらいだった。
どこかの冒険者が取り逃した奴だったのかもしれない。今となってはどうでもいい事なのだが。
たった二つの要因が、自身を大きく追い詰めることになった。
結果だけ……そう、結果だけを言ってしまえば、自分は倒れた。辛うじて致命傷は避ける事が出来たが、動く事なんてとてもではないができなかった。
それは、同時に戦えない幼馴染を危険にさらすという事になった。何故、助かったのかはわからない。
どうして生き延びることが出来たのか、二人の命が助かったのか、わからない。
どんな言い訳をしても、幼馴染を危険な目に遭わせてしまった。それだけはぬぐいようがない事実だ。
その時に、強くなることを諦めたはずだった。筈、だったのに……。今、ここにこうして、父親と同じ舞台に立っている。
諦めたはずの舞台に自分が立っている。
――僕は――どうすればいいのだろうか。
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