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流石のリオンも彼女の提案には驚いてしまった。
元々、リオンはファイとの訓練の為にこれを使うつもりだったのだ。
そもそも、ファイ以外に手解きをするなんて事は滅多にない。
あってもカレナ位のものだ。彼女でも、月に片手で数えられる程度しか、やらないというのに。
だというのに、クルドといきなり戦闘をしろと。
ふざけるな、とリオンは言いたかったが、彼が抗議の声を発する前に、カレナが全員に言葉をかける。
「クルドはやっても良いでしょ?」
「……私は構わないわ」
「いいのかよ! やっても!」
「ええ。不可視の結界が張られているのでしょう? だったら……貴方の実力を見ておきたいわ」
めらめらと、闘志の炎がその大粒の瞳の中で揺らめいている。
大きな瞳は感情の変化がよくわかる。
普段は何も感じていないのではないか、と思うほどに無表情な彼女だから、更によくわかるというのもあるだろう。
「ファイも見てみたいわよね」
「……そりゃ当然」
にやりとほくそ笑んで、ファイはそう言った。
(お前は師匠を見捨てるというのか)
(たまには痛い目を見るべきです)
(むしろお前がやれ!)
(お断りします。たまには他人の戦闘を観戦するというのも悪くありませんから)
(ふざけるな! 結果なんて見えているだろ! むしろお前がやれ!)
(俺がやっても結果が見えてるでしょう。むしろここはリオン様がやる事が自然です)
(ふざけるな! こいつが何でスクルドと呼ばれているか分かっているのか!)
(ええ、そりゃ当然)
(だったらここは危機回避だろうが!)
(自分でまいた種は自分で回収してください)
(畜生! 俺に死ねって言うのか!)
(生命力だけはゴキブリ並の癖に言わないで下さい)
弟子と言う名の孫にまで見捨てられて、リオンはその場にうなだれる。
なお、この視線だけのやり取りは僅か一秒間のものだ。
意思疎通など彼らの間では、この程度のやり取りなど当然のことだ。
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