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彼女の鋭い視線を、受けながら静かに答える。
「当たり前だ。お師匠様をなめるなよ」
「崩天のルシフェル様、ね。でも、彼の周りで貴方の姿を見た事が無いわ」
「そりゃ、お前が俺の存在に気付かなかっただけじゃないのか? 尤も俺は五年程前から師事していただけだからな」
「その間に、私は一度あった事があるわ。私が今、一体何歳だと思っているのかしら」
「……そうだったな。お前の年齢は、俺より幾つも上だったか」
「そう、だから私はあの方と会う事があったわ。でもリオン、貴方の姿はどこにもなかったわ」
「そりゃそうだ。さっきお前は俺が何故本気を出さないか、って聞いたな。それはな、俺が――」
一瞬だけ言葉が途切れたかと思ったその刹那、ナイフを持ったリオンがクルドの背後に居た。
「使う戦法がこいつなんでな」
ついさっきまでリオンはクルドの前に居た筈だ。
いや、今現在もその姿はそこにある。
「リ、リオンが……二人?」
ワルキはその光景にたじろぐ。
「……幻。でも、私が気付かないなんて?」
「俺は、基本的に面と向かって戦うタイプじゃ無いって言っただろう。影でこそこそと獲物を狙ってた方が性に合うんでね」
リオンがそう言った瞬間に、眼の前の虚像は消えて、背後にいるリオンだけが残った。
「俺は暗殺を生業にする予定なんでな」
すぅとリオンの姿が消える。
驚き周囲を見回すと、先ほど彼が立っていた場所に、黒猫を肩に乗せて立っていた。
「じゃあな。出来る事ならお前さんとは二度と戦いたくないぜ」
黒猫を連れた暗殺者は、足もとからゆっくりと姿を消していく。
「相変わらず、無駄な演出ですね」
「いいだろう? 此方の方が、様になるのだから」
苦笑しながら言うリオン。
「ああ、そうそう。俺達がいなくなったら、不可視魔法とかいろいろ解除されるから。気を付ける事だねぇー」
間延びした声でそう言うと、完全に彼の姿は消えてしまった。
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