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暗い思惑に囚われそうになっていた私は
呼ばれた声に我に返って顔を上げた。
小走りで、私の方へと少女が向かって来る。
薄紅色の着物を着て、二つのおさげを揺らした十を過ぎたくらいの年頃の少女だ。
「菊ちゃん!…良かったぁ、ようやく会えた」
息を整えてから、少女は私に微笑んだ。
「その着物は…?」
今時、普段着で着る者など殆どおらず、
ましてや戦火の燻る街を行くには向かない服装だ。
「だって、菊ちゃんアメリカの偉いさんと一緒におるんが多いみたいだから」
「……え?」
「汚れた格好で来たら、菊ちゃんに恥ずかしい想いをさせてしまうやろう?」
照れたように頬を染めて、そして言葉を付け足した。
「母さんの形見なんよ。燃えずに残ったんよ?奇跡やろ!」
目頭に熱が籠もるのをなんとか堪えて、私も少女に笑みを返した。
「良く…お似合いですよ」
「ありがとう!」
少女は、とても嬉しそうに笑ってくれた。
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