憂敬──長月 二十七 ノ 日

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  暗い思惑に囚われそうになっていた私は 呼ばれた声に我に返って顔を上げた。 小走りで、私の方へと少女が向かって来る。 薄紅色の着物を着て、二つのおさげを揺らした十を過ぎたくらいの年頃の少女だ。 「菊ちゃん!…良かったぁ、ようやく会えた」 息を整えてから、少女は私に微笑んだ。 「その着物は…?」 今時、普段着で着る者など殆どおらず、 ましてや戦火の燻る街を行くには向かない服装だ。 「だって、菊ちゃんアメリカの偉いさんと一緒におるんが多いみたいだから」 「……え?」 「汚れた格好で来たら、菊ちゃんに恥ずかしい想いをさせてしまうやろう?」 照れたように頬を染めて、そして言葉を付け足した。 「母さんの形見なんよ。燃えずに残ったんよ?奇跡やろ!」 目頭に熱が籠もるのをなんとか堪えて、私も少女に笑みを返した。 「良く…お似合いですよ」 「ありがとう!」 少女は、とても嬉しそうに笑ってくれた。  
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