憂敬──長月 二十七 ノ 日

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  「あんね、菊ちゃん」 「──はい、なんでしょう」 「私…菊ちゃんにお礼を言いに来たん」 「…お礼……ですか?」 「うん」 何の事か思い至らず私が眉根を寄せると、少女は静かに俯いて …言った。 「………赤紙が来とったん、お兄ちゃんに…」     ───召集令状…── 「もし…戦争 終わるんがも少し遅かったら………お兄ちゃんも戦場に連れてかれとった────」 少女の手が 私の袖口をソッと掴み、そして額が触れそうな距離まで近づいて 秘め事を囁くような声で私に言った。  
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