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「あ、遥くん!お帰りなさい」
台所で母さんと話していた紗菜が、俺を見て微笑む。
背中に流れる長い黒髪。
小さな色白の顔に、長いまつげの大きな瞳。
スラリと伸びた手足。
小さい頃から一緒の幼なじみ目線から見ても、紗菜は美人だ。
「じゃあ私、そろそろ…」
「え、もう帰っちゃうの?じゃあ遥、さっさとこれ持って」
小さいのにやたら重い段ボール箱を押しつけられる。
中身は林檎。
ばあちゃんの家は青森で林檎農家をしていて、この時期になるとどっさり届く。
で、母さんが近所に配りまくる。
これは紗菜の家の分なのだろう。
「何で俺…」
「あら、こんなに重い物を、か弱い女に持たせる気?」
「……」
紗菜はともかく、母さんのどこがか弱いんだ…などと口に出したら、メシヌキじゃすまされない。
連日接待続きの親父と、男兄弟がいないことを恨みつつ、俺は箱を持つ。
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