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 私、藤宮陽香は学校の図書室が好きだ。  貸出カウンターから見る図書館は不思議と特別に見えたし、カウンターに座ると、まるで自分がこの図書室の主になったみたいで、書架を見上げながら本を探す人、座って読書をしている人、ノートと睨めっこしながら自習している人、色んな人をカウンター越しに見ているのは楽しかった。  小学四年生のときに初めて図書委員になって当番で貸出カウンターに入ってから私は貸出カウンターの中から見る図書室の魅力にとりつかれてしまい、それ以来ずっと図書委員をしている。貸出当番を面倒くさいと嫌がる人も多いけど、私は、それはもったいないと思っていた。特別本が好きって訳では無かったけど、しんとした図書室の雰囲気が好きだった。高校二年生になった今ももちろん図書委員だ。  ただ、高校の図書館には常駐司書がいたので貸出当番が無いと聞いてがっくりとしてしまった。それでも、諦めきれずに常駐司書の飯田さんに頼んで放課後の貸出カウンターに居座らせてもらっている。  今も、返却にきた女子生徒から本を受け取って、バーコードを読み込んで、はいオーケーです、なんて笑ってみせた。最初のうちは訝しんで見られたり、図書委員の仕事にないよねとか聞かれたりしたけど、二年目にもなってしまえば暗黙の了解といった感じで疑問をぶつけてくる人はほとんどいなかった。例え文句を言われても飯田さんがうまく取り繕ってくれた。  当の飯田さんは、堂々とサボれるなんて冗談を言ってカウンターの奥の部屋に引っ込んでいる。きっと私にはよくわからない司書の仕事をしているのだろう。もしかすると本当にサボっているかもしれないけれど。  飯田さんはいい人だけど冗談が多いせいでいまいち真意が読取りにくい。私が、このポジションを手に入れるためにお願いしにいったときも軽口で承諾されてしまって拍子抜けしてしまった。細い楕円の眼鏡にピシッとスーツを着込み、眼鏡を上げながら静かになさいと注意でもしそうな印象の外見だったのにすんなりオーケーが出るなんて思いもよらなかった。しかもそのあと、返却された本の片付けと試験や学校行事を優先することを条件として出し、お茶目にウィンクなんてするんだから卑怯だ。お堅い出来る女性のイメージは一気に崩れ去った。それと同時に私の中で憧れの女性ランキングの上位にノミネートもされたけれど。
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