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そもそも、太陽光がろくに差し込まぬ世界だ。
常日頃昼と言う時間は、まるで朝の様に中途な明るさ。
厳密に言えば、周りを視認でき、しかし遠くを見渡すのには不十分な明るさなのだ。そんな世界で、そう簡単に植物は育たない。
「見ての通り、空はこのザマさ。太陽光なんざ見たこたァねえが植物に必要なモンだってのは知ってる」
「じゃあ、何故わざわざ?」
僕が尋ねた後、男はしゃがみ込み土を掴んだ。
固い土を軽く掬い上げたその指は、茶色く太い。
「兵隊さんは、土に触れた事はあるな?」
「ええ、まあ」
「……この村からそう遠くない場所、そこには既に死素に犯された森があるんだが」
なら、尚更植物を栽培など馬鹿げた行為だ。
僕はやめるよう訴えたかったが、まあ当然無駄だろう。
男は眉を潜め、視線を遠くに向けた。
話は、続く。
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