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戦時中に兵士が家族や友の話しをするのはもはやお約束だが、そんな人達の気持ちが今、分かった気がする。
会えないと分かっていて尚そんな話をしてしまうのは、生にしがみつくからこそじゃないか。
くだらないが僕は無意識にそんな風に、自分を鞭打つ様に話していた。
ただ別に生にしがみつこうとも話題にしがみつきはしない。
僕はふと尋ねた。
「君、故郷は?」
そう言った直後に男は目を逸らし、口を閉じる。
陰欝な雰囲気こそ出しはしないが、話したくはないのだろう。
僕はしまったと思いすぐに謝った。
この国で、この世界で故郷について話したくなくなる理由は二つしか無い。
一つは、戦争によって没落、占領されたか。
もう一つは、“腐り落ちた”か。
この世界は酷く腐敗していて、そもそも戦争の原因もそこにある。
腐敗した大地は長く時を経て健全な大地を浸食していき、際限無く赤黒い“死素”と呼ばれる気体を噴出しだす。
死素は木々を初め様々な生物に有毒であり、少しでも肌に触れれば時間こそかかるものの確実に肉体を蝕み腐乱させる程の毒性を持っていた。
植物は死素に感染しやすく、感染すれば本来の生態を変え、生き物の様に死素を吐き出す。
それ故植物の生きる場所程浸食も早く、だからこそ良い条件の土地を奪い住む為に戦争が始まったのだ。
街一つ、気付けばいつの間にか腐り落ちるなど今や珍しく無い程、死素の浸食は早く、広かった。
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