はめつへの足音

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「わ…たし…は…」 声が震える。 クライムが大切よ。 何を差し置いても、今の私にクライム以上の存在なんてないの。 だけど、 だけどね。 「選べないよ…」 どっちも大切なの。 どっちつかずで優柔不断だと怒る? 「イヴにでも…なるつもりかよ…」 その言葉が意味するものがわかって、私は自然と眉と一緒に視線を下げた。 「ごめんなさい」 禁断だと知りながら愛する人と禁忌を犯し、楽園を追放されたイヴ。 知恵がついた彼女は例え楽園を追放されてもアダムを愛していたかった。 イヴみたいに強ければここでクライムが何より大切だとウィズに言うことが出来たのかな。 「…わかった」 「わかった…って?」 「人間時間で一週間…時間をあげる。それまでに天使につくか、そいつにつくか考えといて」 「…どうゆう…意味?」 わからない。 全然わからないよ。 否、わかりたくなかっただけかもしれない。 「悪魔殲滅戦…いや、悪魔の排除命令が出たんだ」 どこかでいつかはこうなることを ずっと昔から気づいていたの。 「また迎えに来るから」 名残惜しげに私から離れたウィズがチラリとクライムを睨みつけたのを視界の端に捉えたけれど、それさえも気にならないくらい私は動揺していた。 「ルナを傷つけるなら俺はお前を殺す」 「天使が物騒なこと言ってんじゃねぇよ。まぁやれるもんならやってみるんだな」 そんな会話さえ右から左。 「ルナ…じゃあまた…一週間後…」 ゆっくり飛び立つウィズの背中をぼうっと見つめたまま、私は小さく拳を握った。
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