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うるさいのは風の音でも誰かの話す声でもなく
「ほ、んとう…?」
紛れも無く私の心臓の音だった。
ドキドキ
ドキドキ
馬鹿みたいに早鐘を打つ心臓を掴むみたいに、服をぎゅっと掴んだ。
今彼の口から漏れた言葉がにわかには信じられなくて、ただ目を見開いて彼の整った顔を見上げる。
「お前はわざわざ嫌いなやつを毎日毎日側に置いたり出来んのかよ」
「…その人が…それを望むなら」
人も動物も、天使も悪魔も
出来ることならみんなの願いが叶えばいいと思う。
みんなが幸せなら私も幸せ
「馬鹿か。俺はお前みたいにお人よしじゃねぇんだ。嫌いな奴はどう懇願して来ようが視界に入れたくもねぇよ」
「それって…」
「言っただろ。俺はお前を気に入ってんだ。
でも勘違いはすんなよ。確かに嫌いじゃねぇが好きでもねぇんだから」
あぁ私やっぱり
「何笑ってんだよ」
「ふふ、ううん。何でもないの。ただね…」
この人が
「好き、だなって」
私やっぱり好きになってもらわなくていい。
ただ側にいられる
これ以上の幸せなんて今はきっとないもの。
「知ってる」
口端を持ち上げて笑ってみせたクライムは何度見ても綺麗すぎて慣れない。
急に熱を帯びた私の頬をゆっくりと彼の手が撫でて
ゾクリと粟立つ背中と何かを欲しがるように疼く下腹部。
「ばーか。んな顔しても抱いてなんてやらねぇぞ」
ぼんやりする私を置いて、クライムは馬鹿にするように笑った後、私に背中を向けて漆黒の羽根で飛び立つ。
慌てて彼の背中を追う私の熱はやっぱりその後もしばらく冷めることはなかった。
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