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「じゃあ、一緒に食べる」
アリエッタは抱擁を解き、そのまま僕の手を握り、先を歩く。
「僕のために作ったんじゃないわけ?」
精一杯の憎まれ口。照れ隠しとも言う。
「だって、本当はカットしてラッピングして渡すつもりだったのに……丸ごと持ってっちゃうんだもん。
シンクひとりじゃ食べられないでしょ」
僕は引っ張られながら半歩後ろを歩いているから、アリエッタの顔が見えない。
「……何で僕の好み知ってたんだよ」
さっきイオンとアニスに会ったとき、イオンは甘いものが好きだと言っていた。
もらったケーキは、甘いとは到底言えないものだったし、本当にイオンではなく僕のためのものだったと言える。
ただ、アリエッタにも誰にも、好みを話したことなんてなかったのに、何でわかったんだ?
「そんなの、アリエッタすぐわかる」
「……」
断言されてどう答えるべきかわからず、僕は黙った。
「食堂の朝食の卵焼きが甘くて嫌そうな顔してるのとか……
コーヒーも紅茶も砂糖入れないのとか……」
「それっていわゆるストー……」
「だってどうせ聞いたって教えてくれないもん」
まあ、確かにそうだけど。
「でも、半分も食べてくれたから。
アリエッタ嬉しい」
「……バカじゃないの」
食べるに決まってるだろ。
初めて貰ったプレゼントなんだから。
「シンクの部屋、ここでしょ?
入るからね」
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