入学

2/62
78949人が本棚に入れています
本棚に追加
/500ページ
その日の朝はかつてない程に衝撃的だった。新聞を読んでいた親父は報せを聞いた瞬間、力み過ぎて新聞を真っ二つに破いた。その報せを泡を食ったようすで持って来たお袋と言えば、駆け込んだ勢い余ってテーブルに激突。朝食を床にぶちまけてしまう始末。 その多大なる被害を被った俺だが、かくいう自分も口に含んでいた珈琲を典型的にも噴き出してしまった。 小柄ながらも役所でバリバリに事務をこなす親父は、御歳45にも拘(かかわ)らず未だに下っ端の下っ端。たっぷりと口回りに髭を蓄えてはいるが、下っ端。 腹が出ていないだけ、マシか。中流貴族の上司から嫁を貰ったのに、何故出世出来ん。 既に親父の出世を諦めたお袋は、貴族のプライドなんぞどこへやら。昼間からソファで横になり読み物と戯れる毎日。昔の写真を見た事があるが、今とは天と地の差。真っ赤なストレートのロングヘアーに、真っ赤なドレスに身を包んだスタイル抜群な女性が大勢の男に囲まれているが、これは過去の栄光ということで仕舞い込まれている。 赤い髪……。お袋の血が濃い俺としては、行く末が案じられる。 駆け込んで来たお袋の手に握られている、ちっぽけな封筒。それは、王国附属魔法学院の合格通知書。噴き出した珈琲を浴びて変色していたものの、間違なく合格通知書。 まさか、下級貴族の我が家から王家御用達の学院に入学出来るなんて。 記念受験とはしてみるものである。これで就職安泰、モテモテ。人生薔薇色。おさらば下級貴族。 とはいえ、その学費がどこから捻出されるのかと言えば親父の労働に対する賃金であり、その莫大な額を知った親父はひっくり返った。
/500ページ

最初のコメントを投稿しよう!