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空は漆黒の闇に溶け、辺りは静寂に包まれていた。
ザザザザザ…………。
永遠に続くかに思えた無音の世界を打ち破る草木の擦れ合う音。
その音の先には朱く光る双眼。この世界が生み出した物では無いのは明らかだった。
ギョロとした朱眼の異種は、何かを探しているのか仕切りに首を左右に動かしている。
「逃がしはしねぇぜ!」
若い男の声が異種の真上から聞こえた刹那、白い一筋の閃光が鋭く走った。
ドォンと轟音がして辺りには土煙りと草いきれの匂いが充満する。
「…やったか?」
土煙りの中から、夜目でもはっきりと確認出来るスラリとした長身の影が現れた。その手には、先程の白い閃光と同じく光る細身の剣が握られている。
「全く、こちとら忙しいってのに…」
何やらぶつぶつと呟きながら、宙を舞う土煙が治まり辺りの視界が開けるのを待つ男。だが先程倒したはずの獲物の姿はなかった。
「!!」
刹那に背後から鋭い殺気を感じ本能的に身体が動く。
ヒュンと乾いた音、暗闇に鈍く光る四本の爪、鋭い風が男の切っ先を掠める。
「くそっ、舐めんなっ!」
すかさず剣を構え反撃しようてとするが、再度舞い上がった土煙が運悪く目に入ってしまった。動けないでいる男を嘲笑うかの様に朱眼がぎらつき異種の咆哮が木々を揺らす。
(ちっ、やべぇなこりゃ。しかしアレを使うのは気が向かねぇ)
上手く開かない片目をゴシゴシと乱暴に擦りながら男はズボンのポケットを漁った。
(!!無いっ!)
男の顔が瞬く間に青くなる。焦る手でポケットを確かめるが何も入っていない。反対のポケットも同じだった。
「まさか…忘れた?」
頭の中を駆け巡る記憶、回顧の渦、しかし思い出せない。軽いパニック状態の男の事情など知らぬ異種の攻撃、鋭い爪が男を捕らえる。
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