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「おい、ミツル!」
オレはよたよた歩くミツルを、疎ましく眺めた。腹に手を当て、壁に手をつき歩くミツル。
「……お?」
顔を真っ青にして、でもアホみたいに笑うミツル。オレは近づいて、乱暴に腕を引っ張り、肩を抱いた。
「早く歩け」
ふにゃりと、体重がのしかかってくる。
「おい、ミツル?」
お前をおんぶする気はないぞと、その幼い顔を覗き込んだ。目をかたくつむり、眉をひそめる表情。石のように固まってしまったので、仕方ないなとミツルをお姫様抱っこする。
……やわらかい。
妙に、納得した。こいつは本当に女なんだと。そしてオレは女を抱っこしているんだと。お……女、を? あれ、なんだ、おかしい。オレ、変だ、ぞ? 触れた手から腕、胸、顔へと熱が伝ってくる。熱い。なんだ、ドキドキする。
ブルブルっと首を振り、階段を上がる。
いやいやいやいや、きっと風邪だ、雨の中いたから、きっとそうだ。この動悸は、風邪なんだ。自分にわあわあと言い聞かせる。
あ、鼻がムズムズする。
「ぶえっくし」
唾と共に大きなくしゃみ。ほらな、と、ジェイは自分に言い聞かせた。
血の止まりかけた腹の傷の痛みを我慢するミツルを腕に抱きながら。
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