voice(同級生、クラスメイト)

3/44
前へ
/44ページ
次へ
「洋平」 試しに名前を呼んでみれば、授業中だって振り向くようなやつだから。 俺の気持ちを伝えたら、きっと律儀に言葉をくれるんだろう。 優しくて 優しくて 残酷な。 「前向けよ」 ぽんと軽く背中にあてて促した手。洋平に触れた手のひら。一生洗わないでおこうなんて乙女な思考は持ち合わせていない。 嬉しいとは思ってしまったけど。 「お前、最近へん」 授業が終わって休み時間になると、洋平はこっちを振り返った。 眉間に寄った皺。少し細めて俺を凝視する目は、俺を疑ってるときのそれ。 「気のせいだろ」 最近多くなってきたセリフ。 自分でも分かるくらいに。 気のせい 気のせい、 気のせい。 繰り返した。 「嘘つくなよ」 とうとう痺れを切らした洋平は、俺のことをうそつきだと言った。不自然に口を歪めて。 うそつき。 俺が。 確かにそうかもしれない。 いや、そうだよ嘘つきだ。 でも、俺だけを責められたことか。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

353人が本棚に入れています
本棚に追加