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「洋平」
試しに名前を呼んでみれば、授業中だって振り向くようなやつだから。
俺の気持ちを伝えたら、きっと律儀に言葉をくれるんだろう。
優しくて
優しくて
残酷な。
「前向けよ」
ぽんと軽く背中にあてて促した手。洋平に触れた手のひら。一生洗わないでおこうなんて乙女な思考は持ち合わせていない。
嬉しいとは思ってしまったけど。
「お前、最近へん」
授業が終わって休み時間になると、洋平はこっちを振り返った。
眉間に寄った皺。少し細めて俺を凝視する目は、俺を疑ってるときのそれ。
「気のせいだろ」
最近多くなってきたセリフ。
自分でも分かるくらいに。
気のせい
気のせい、
気のせい。
繰り返した。
「嘘つくなよ」
とうとう痺れを切らした洋平は、俺のことをうそつきだと言った。不自然に口を歪めて。
うそつき。
俺が。
確かにそうかもしれない。
いや、そうだよ嘘つきだ。
でも、俺だけを責められたことか。
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