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お前にだって俺に言ってないこと、あるんじゃないか。嘘ついてること。あるんじゃないか。
「よーちゃん」
「なぎさ、」
ひょっこりと現れた彼女は、洋平と軽く挨拶を交わしあうと、くるりと俺のほうへ振り返った。
「高木くん」
「なに」
「教科書、貸してくれないかな」
時間がとまってしまうことはない。
一秒でも一瞬でも一ミリでも。
ひとは停止するということを知らない。
だけどこうして彼女がここへやってくると、やけに世界はゆっくりと動くようになる。彼女の姿が視界にはいってから、こっちへ向かってくるまでの一歩一歩。洋介に声をかけるときの口の動き。振り返る体。
まるでスローモーション。
でもそう感じているのは俺だけ。
俺だけ。でも。
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