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思考回路が停止したままの頭にその台詞が溶け込むように落ちてくる。ふわり、と肩に触れる触り心地のいいものが魔物のコートだということに気付いた頃には既に魔物の姿は無かった。
去りぎわに残した、優しい笑みの理由が分からないまま……。
「サラ様!」
どうやら、ぼんやりしていたらしい。仲間の声にはっと我に返った。
「え、あ……何?」
「ご無事で何よりです。怪我は?」
「してない」
刀を鞘にしまいながら答えると、小さな溜息が聞こえてきた。
表向きは魔物退治屋だが、実際は雇われれば標的を殺す暗殺組織。
裏社会を生きているからこそ、毎日が生きるか死ぬかの瀬戸際。恨まれて殺されそうになることなんざ日常茶飯事だ。
だからなのかもしれない、この仕事を始めたばかりの頃は任務終了後に仲間が消えていれば泣き寝入りしたぐらいだが、今では心配する事さえ無くなった。
この社会では、負ける事が死。自分の身は自分で守るのが暗黙の了解である。上辺だけの心配しているという意味の単語を羅列しただけの台詞を聞くなんて吐き気がする。
「その、紋章……!」
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