夜の海

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「腕が立つだけの能無しかと思ったが……私の気配に気付くとは一応身はあるようだな」  視線の先には背中から大きな漆黒の翼を伸ばし、中に浮いている人間と間違えるほど美しく整った顔をした魔物がいた。だが、桁外れの美しさで笑っている顔が今は逆におぞましい。 「何者だ、貴様……」  勢い良く抜刀し、刃先を相手に向ける。離れた所に居た仲間たちもただならぬ雰囲気を感知したのか、個々の武器を持って現場にやってきた。 「私か?私は高等魔物である……悪魔だよ」  にやり、と妖艶に笑った次の瞬間、瞬き一つする間に魔物の手によって壁に追いやられた。  しかし、壁に叩きつけられた記憶も無ければ、痛みも無い。  自分を逃がさない、とでも言うように壁に手をついている魔物を睨み付けながら見上げた。 「何のつもりだ……」  凄みをきかせて言ったつもりだったが、魔物には一切通じなかったようだ。 「そんな薄着してたら風邪引くぜ……サラ」  名前を知っている事に対してなのか、それとも大好きな彼に似ていたからなのか、自分でも分からないが驚いて魔物の目を見れば、瞳の中が笑っていた。
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