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トリックオアトリート
冬場のベッドの上では誰よりも小さくなれる自信があった
タオルケットを頭まですっぽり被ってしまえば
このまま消えられそうな気がした
*
誰も訪ねてこなくなって久しい夜
枕元に気配を感じて目をやると磯村くんが立っていた
小学生の頃、丸のまんまの南瓜みたいに扱いにくかった彼は
すっかり裏ごしされ随分と小さく、小さくなっていた
当時磯村くんはいくつも風船を引き連れていて
毎日毎日沢山割ってた
はしゃぎすぎて歯を折ったことだってある
私はそれが無限にあると思っていた
幼い頃の風船はカラフルでよく膨らんでいく
そして素敵な音をたてて割れるのだけど
次第に減り、もう数える程しかなくなって
やがて割れることなく静かに萎んでいく
私はそれが無限にあると思っていたのだ
卒業アルバムの磯村くんは格別に格好良かった
欠けた歯を目一杯みせて笑っていて
そうやってもまだ十分に許されていて
*
「いつまでもタオルケットで寝てんじゃねーよ
もう十月も終わるってのに」
と言って少し笑った磯村くんの前歯は綺麗に揃って並んでいた
それがちょっとだけ悲しかったりもしたけれど涙は出なかったから悲しくなかったのかもしれない
泣ける泣けないで計れはしないこと、とっくに学んだ筈なのに
*
タオルケットの心許なさにクシュンとくしゃみをすると磯村くんの羽織っていたマントが毛布に化けて私の全身に被さった
彼はあの頃のような笑みを浮かべながらワン、ツー、スリーで指をパチンと鳴らし
毛布の下の私を見事に消したのだった
*
磯村くんは風船を割る仕事をしているのだという
子供だけの風船を割って回っているのだという
*
もう一度私が盛大なくしゃみをすると呆気なく体はもとに戻ってしまった
残念な面持ちで磯村くんを見やると
本当に消してなんかやるもんかって顔でハイライトをくゆらせている
それから私の垂れた鼻水を袖でぐいっと拭きとり
「鼻水は服で拭いちゃいけないんだぜ」
なんて言い残して南瓜に化けて転がった
*
丁寧に裏ごしした南瓜のペーストを練り込んでクッキーを焼く
ほのかに磯村くんの匂い
誰が訪ねて来てもいいようにと
玄関にそっと南瓜のクッキーをぶら下げた
*
押し入れから毛布を引っ張り出しくるまりながら
また明日には萎むであろう風船をふうっと膨らます
どこかでパチンと音がした
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