都会の隈さん

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都会の隈さん

(羊が1匹羊が2匹数えていたら 3匹目の羊が転けて 4、5、6と次々転けて もこもこ重なり雲になって帰ってこなくなった それきり羊は 数えていない) ある日都会の片隅で隈さんに出会いました 隈さんは お逃げなさいと言ったり お待ちなさいと言ったり天の邪鬼な素振りを見せて翻弄した挙げ句 何だかんだで結局は家までついてきました 隈さんは これ落としましたよ、と 昔僕が捨てた筈のボールペンを差し出したのです ボールペンは出世したらしく万年筆になっていて 何とも迷惑そうな顔をしています とりあえず二人を家の中へ招き入れはしたものの お茶菓子が無かった事に気付き 僕はお茶に添えて小話を一つ披露しました しかしそれは万年筆にえらく酷評されてしまい 僕はすっかり打ちひしがれてしまったのだけれど 飴玉をくれたのであっという間に忘れてしまいました 万年筆には帰る処があるらしく、お茶を一口飲んだ後そそくさと帰って行きました 隈さんには帰る処がないらしく、二杯目のお茶を飲み終えると いつの間にか僕の目の下に住み着いてしまったのでした 外ではいつも圧力をかけられている僕は 家に帰ると豚に圧力をかけるのが日課です すると美味しい角煮が出来上がるのです (仄かに革命の匂いを放ちながら) 大抵の豚はくたくたになって 「もうどうにでもしてくれ」と言うのだけれど 時折 「こんなものには屈しないぞ」と言うものもいるので そんな時僕の胸は少し 軋んだりするのでした 窓の外では雲がもくもくと集まりだし 雨を降らせる準備をしています ところが雨が降り出すかと思いきや あちらこちらの空からは 雲が羊になってぽろぽろと落ちてきていたのです (僕は脳みそを広げると 羊を拾い集める為に旅立って行った 隈さんと共に それきり僕は 帰ってこない)  
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