のぼる

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のぼる

月を見つめているとお腹いっぱいになる あれはバタークッキーだよと教えてくれた幼なじみは 自由に空の色を変えられた 工場長の目を盗んで書いた手紙は いつも届かないまま何処かへいってしまう ご飯粒で貼り付けたものだから 言葉達は途中でからからに乾いてしまったのかもしれない それとも鳥につつかれたのかな それはそれで構わないのだけれど * 定時に帰路につく 倉庫裏で重なり山積みになっていく同僚達に会釈をして その後はもう泥のように眠るだけだ 休日は、昔君に貰った虫眼鏡で蟻を見ているよ 時々彼らをくっしゃり踏み潰したくなる日があるよ ぐっとこらえて 虫眼鏡で時間を潰すようにしているよ * 年に一度自転車で帰る故郷が だんだんと遠くなっていく気がする あと三年もしたら きっとたどり着けなくなるだろう 今は遠く離れている恋人が いつかベルトコンベアから流れてきたら プロポーズしようと思う そんな日が来ないこと わかっていても 君も結婚式には来ておくれ * 月の濃い晩だった すっかり満ちた体 油を含んだ髪はもうなびかない 月の濃い晩だった 積み重ねられた同僚達によじ登り 月を頬張る夢を見た 最後に相応しい味がした * 翌朝、虫眼鏡が鼻眼鏡になっていた それをかけたら少しだけ陽気になった だから大丈夫だ * 動かなくなった僕を 工場長が倉庫裏へずるりと引きずり、積み重ねていく この上にもまた誰かが重なり続けるのだ さようならは届かないといい  
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